読書のすすめ7(2020-5-7)

皆さん、元気ですか。連休が終わり、いよいよ授業が始まります。オンライン授業というこれまで誰も経験したことのない授業ですから、わからないことや困ったことは、できるだけ一人で悩まずに授業担当教員へメールで知らせるなどして、相互に工夫を重ね環境を整えていけると良いですね。

 さて、文化人類学の分野で農耕をもたない格差社会の解明が進み、一方で日本史において百姓=農民ではないという論が展開されたという話をしました。これは、考古学とは異なる分野の研究ですが、このような研究が進んだ背景は、考古学において農耕よりも交易を重視する見方が強まったことと根っこの部分でつながっていると考えています。
 そこで、それを知るために近藤義郎さんの話にもどってみましょう。近藤義郎さんが強く影響を受けた考古学者に、ゴードン・チャイルドがいます。彼は「考古学の父」ともいわれ、遺跡や遺物からヨーロッパ全体を見渡して体系的に先史時代の歴史として編み上げた初めての考古学者として高く評価されています。ヨーロッパでも評価が高いのだから、広い見識を持つ近藤義郎さんがその影響を受けたのだろうと思われるかもしれません。しかし、ただそれだけではなく、きっかけがあったのだろうと思います。それは、アイルランドの新石器時代の墳墓の発掘調査です。
 近藤義郎さんがおこなった1978年〜1980年の科学研究費補助金によるアイルランドの発掘では、宇野隆夫さん、都出比呂志さん、和田晴吾さんが調査に参加し、報告書を完成させています。アイルランドの隣のスコットランドは、ゴードン・チャイルドがエディンバラ大学の教授だった時に毎年発掘調査を実施したフィールドであり、スコットランドにはアイルランドの墳墓と類似した墓制が広がっています。近藤さんらが報告書を書こうとするとすぐにチャイルドの業績に行きつくはずです。実際に、近藤義郎さんはゴードン・チャイルドの本を何冊も翻訳出版しており、その影響の強さがうかがえます。
 近藤義郎さんは、岡山県津山市沼遺跡の調査成果から単位集団をみいだしましたが、チャイルドはオークニー諸島のスカラ・ブレ遺跡を発掘調査し、そこに集団の単位をみいだしました。私は、3回生終わりの3月から9月までイギリスのダラム大学にいたため、イギリスの遺跡を見て歩く機会がありました。オークニー諸島のスカラ・ブレ遺跡は石造りでできた家が連なっており、とても迫力があり感激したことと、周辺の家が4500年以上前の遺跡と変わらない石材でつくられていたことが強く記憶に残っています。
 今日紹介する本は、そのゴードンチャイルドについて書かれた本です。チャイルドの著書の内容をふふまえつつ、チャイルドの接した様々な考古学者にインタビューをして、チャイルドの研究の背景を解き明かしています。アガサ・クリスティーと知り合いだったという話もでてきますよ。大変興味深い内容ですので、是非手に取ってみてください。

サリー・グリーン著(近藤義郎・山口晋子訳)1987『考古学の変革者ーゴードン・チャイルドの生涯』岩波書店

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