読書のすすめ2(2020-4-23)

今日は、都出比呂志さんの以下の書籍を紹介します。

都出比呂志1989『日本農耕社会の成立過程』岩波書店
都出比呂志2005『前方後円墳と社会』塙書房

前者は弥生時代、後者は古墳時代を対象の中心にすえて書かれた本です。都出比呂志さんは1999年に脳梗塞で倒れられましたが、それ以前から草稿し、2005年に『前方後円墳と社会』を出版されました。
 和田晴吾さんも影響を受けたという「初期国家論」は、都出比呂志さんの独自性が強く打ち出された研究です。その初出は、1991「日本古代の国家形成論序説」(『日本史研究』343)と都出比呂志1996「国家形成の諸段階ー首長制・初期国家・成熟国家」(『歴史評論』551号)の論文に遡ります。国家は律令体制の開始により始まるという見方が強かった当時において、初期国家という概念を用いて律令以前の社会をとらえようとした研究で、その後の研究に非常に大きな影響を与えました。これは、新進化主義や構造機能主義の文化人類学者からだされた、The early state という、国家と国家以前の社会の中間の社会をとらえようとした概念がもとになっています。
 都出比呂志さんの『日本農耕社会の成立過程』では、考古資料に基づきつつ、文献史や民族・民俗学的研究成果、言語学の成果をも援用し、日本列島における初期農耕社会の成立を浮き彫りにしたものです。これは、カール・マルクス(『資本主義的生産に先行する諸形態』他)とフリードリヒ・エンゲルス(『家族・私有財産・国家の起源』)の親族・集団・所有に関する理論を論破しようとする試みでもありました。
 この本が出版された1989年以降も考古学資料は増加しつづけ、現在はそれぞれの地域や時代、分野において研究が細分化していますが、前回紹介した和田晴吾さんの本や都出比呂志さんの本を読むと、それらの基礎となった考え方や研究背景が理解できます。是非手に取って読んでみてください。次回は、これらの研究に影響を与えた近藤義郎さんの本を紹介します。

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