3月末にドイツに行く機会に恵まれた。今回の来訪の目的は、ドイツ北部におけるローマの土器窯や土器生産と在地土器との影響関係の理解を深めることである。その際、見学できた博物館や遺跡の内容をここに記したい。(文責:長友)
アルト考古博物館
フランクフルト考古博物館
新石器時代から、青銅器時代(骨壺墓文化)、鉄器時代(ハルシュタット文化、ラ・テーヌ文化)、ローマ時代、中世キリストの世界まで、フランクフルト周辺で出土した遺物を中心に通史的に展示されている。フランクフルトはローマの範囲内ので、ローマ関連の遺物は豊富でバラエティに富んでいる。また、イランの青銅器時代の遺物を所蔵展示しているのも一見の価値あり。
ボン博物館(LVR-LandesMuseum Bonn)
ガラス張りの中に木造建築のある、インパクトのある建物。内部も中央に橋のようにかけられた階段を介して、緩やかに各階がつながっている。1階の旧石器時代から時代を遡るように上階へ上がっていく。扱う展示品は、考古遺物と現代アートという、非常に珍しい組合せ。考古遺物と現代アートが共存する不思議な空間も多い。さりげなく壁際に客のように立っている「人」の作品など、風景に作品が溶け込んでいるものもある。
ネアンデルタール人の人骨は必見。出土した笛も展示され、その再現された音色が展示室に響く。また、新石器時代(BC5089年)の深さ13mの井戸の木枠も復元的に展示されている。日本列島では、弥生時代に水稲農耕が導入された際、集落を囲む環濠や灌漑施設の整備のための地形改変をおこなう。それに伴って井戸が導入されるが、農耕が始まっているとはいえ、かなり早い段階にしっかりとした構造の井戸が出現しているのは驚きだ。ただし、木枠は板材というよりはミカン割り材に近く、組み合わせるための溝も細かな加工は必要ないので、石製加工具でも技術的には十分可能だと思われる。しかし13mとは!
ローマの前線基地Haltern遺跡
ローマはライン川以西を支配地としたが、その東へも勢力を伸ばそうと、ライン川の支流のマイン川沿いに基地をつくっていった。Halternはそのひとつ。二重の環濠を方形にめぐらせ、その内側に堤をもつ。排水のため外へ伸びる環濠もある。内部には、兵士のための宿舎が整然とならぶ。赤色のローマ土器は、兵士の使用したであろう無文の皿と鉢の食器が主で、ローマ土器特有の華麗な土器は非常に少ない。食器の裏には所有者の名前が刻まれており、各自で食器を所有していたことがわかる。素焼きの貯蔵具と小麦粉を粉にする磨り石、大型貯蔵具と大型の磨り石、貨幣やおもりなどが展示され、ローマの植民都市にみられるような華美な壁画や遺物はない。一方、環濠の外に土器窯が数基形成されている点は注目される。小さな坩堝も出土しており、前線基地でも土器や簡単な金属器加工など最低限必要な物資を自給していているのは面白い。近年の研究では、ローマとゲルマンの対立よりも交流の側面が重視されるという。貨幣が意味を持たないゲルマンにおいては、装飾品や土器などの希少品や日常品が交易品として重宝されたようだ。食料などを得るため、土器窯で生産された土器はゲルマンとの交易にも用いられた。
ボッフムのヘレナ考古博物館
(LWL-Museum fur Archaologie Westalisches
Landesmuseum Herena)
ボッフムにある先鋭的な考古博物館。前回は常設展を見学したが、今回は特別展を見学。
この特別展は、「考古学者は過去の遺物をどう解釈するのか」という内容。導入部のアニメーションでは、未来の考古学者が朽ち果てて遺跡となったアメリカのモーテル(ホテル)を発掘調査し、それを解釈するという設定から始まる。コカコーラやドアにかけたカード、ドアの部屋番号の数字が展示され、これを未来の考古学者が様々に推測し解釈していく。天井の高い大きな一つの空間の展示室を、布や薄い板で囲った小さな部屋で緩やかに囲み、それぞれ部屋では個々のサブテーマが語られる。例えば、今も子供に人気があるユニコーンは伝説の動物。ない存在であるにも関わらず、その歴史を紐解くと、ユニコーンがいたことを実証するための様々な物(他の動物の角など)やタペストリーに繰り返し描かれるなど、物質に表され語られてきた。また、異なる部屋では、解釈がひっくり返された事例について述べている。王冠と推測される金属品が発見され、歴史的に大変重要なものだとされた。しかし、王冠に刻まれた顔の天地が逆であることから、実は遺物の天地は逆さで、桶の縁と把手の部分の金具と解釈が改められた。王冠から導かれる歴史的意義とは全く異なる理解となった事例である。一方、数百年も前に掘り出された墓は克明に調査記録されたにも関わらず、当時はその重要性を理解することができなかった。現在、年代を特定することによって、歴史上の人物と照合することができ、その歴史的重要性が理解されたという事例が紹介された。さまざまな具体的な事例をあげながら、考古遺物の解釈の確からしさと危うさを語っている。
日曜日ということもあったが、他の博物館に比べて来館者が非常に多く、皆熱心に見入っていることに驚いた。この博物館は、考古博物館であるにも関わらず考古学専門の学芸員は2人前後と非常に少なく、その他は博物館学など他分野のスタッフで占められる。今回の展示もまさに、考古学者ではない視点からも語られており、それに関心を示す多数の来館者の姿を見ると、考えさせられることも多かった。
セスナ機で遺跡探索
ボッフム大学の宋宝泉先生のご厚意で、ライン川と東は伸びる支流マイン川沿いの遺跡を空から見ることになった。目が慣れていないので、遺構を目視するにはいたらなかったが、マイン川周辺の牧草地には蛇行するラインが見え、川の流れが過去に何度も変化していることがよくわかった。
以下は、ベルリンの博物館である。膨大なコレクションを展示している。とても1日ではみきれない。数日かけて見学することをおすすめしたい。
アルト考古博物館
ギリシャ、ローマを中心としたコレクション。アッシリア、スキタイの遺物もある。
ペルガモン博物館
西アジアの壁画が復元的に展示されている。タイルを現地から持ち帰り、貼りなおして実寸大で復元している。博物館は、復元した建物がすっぽりとおさまっているので、おそらくこの建物を復元するために設計されたのだろう。良くも悪くも、なんというスケール!
ドイツ歴史博物館
ドイツのローマ以降の歴史が表される。遺物とともに、生活を克明に描いた絵画やタペストリーが並ぶ。見ごたえのあるタペストリーと絵画も素晴らしい。
ノイエ博物館
古代エジプトの遺物が多く所蔵展示してある。ヘレニズムなども多数展示。ベルリンの新石器から、青銅器、鉄器時代については、最上階の4階に展示される。コレクションを中心としており遺構の脈絡からは離れているものが多いが、古い発掘調査出土資料もある。
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